一ノ倉岳
いちのくらだけ
1974m
みなかみ町
茂倉岳から
登山日 2009年6月7日(曇り) しんぷる、tomo
行 程 一ノ倉沢出合(6:00)…幽ノ沢出合(6:20)…芝倉沢(7:00)…尾根取付(7:30)…道標(9:06)…一ノ倉岳(10:00-15)…ノゾキ(10:37)…奥の院(11:04)…オキの耳(11:12-38)…トマの耳(11:54)…ガレ沢ノ頭(13:06)…土合1時間の道標(14:00)…西黒尾根登山口(14:26)
 中芝新道は「昭文社の山と高原地図16谷川岳」に掲載される登山道のうち唯一の破線登山道である。今は閉鎖してしまった「おひるねの森」の山行記で紹介されたものを読んではいたが、なかなか大変な道であるとの認識を持っていた。最近ではtomoさんの記録があるが、やはり簡単な道ではないと書かれている。このところ山と高原地図を開くことも少なくて、未踏の登山道に対する欲求がなくなってきているのは確かだ。さて、そろそろツツジの花見山行も終わりにして北の山の花を見たくなる時期になってきた。雪解け直後から咲き始める可憐な花々は実に美しい。梅雨の晴れ間の谷川岳は高山植物を十分に楽しませてくれる山の一つだ。tomoさんからの誘いを受けて未踏の中芝新道を歩くことになった。

 登山指導センター先の駐車余地に一台を置き、一ノ倉沢出合まで乗り入れる。登山者や観光客が多くマチガ沢駐車場は満車状態、そして一ノ倉沢では何とか駐車できるような状態だった。相変わらずカメラマンが多いが、生憎のガスで思ったような写真が撮れるのだろうか気になるところではある。ヘルメットを付けて一ノ倉沢を詰めるクライマーもいる。こんな視界の中、大丈夫なのだろうか?

 一ノ倉沢を渡り登山口のある芝倉沢出合へと足を進める。かつて馬車が通ったという道は遭難者のレリーフが数多く岩壁に埋め込まれ、今でも花があげられている。一ノ倉尾根を回り込むように道は続く。回り込んだところが幽ノ沢出合だ。この沢は敷石を頼りに徒渉するが大したことはない。明治時代に積まれた石垣がしっかりと残る旧国道の清水街道には真新しい車の轍も残されている。新緑が美しい道にはタニウツギやムラサキヤシオが目を楽しませてくれる。1時間ほどで芝倉沢が見えてきた。一ノ倉沢ほどの雪渓ではないが上部まで切れることなく続いている。この雪渓を上っていくようだ。

ガスに煙る一ノ倉沢

芝倉沢 ここを上っていく

真新しい芝倉沢道標
 芝倉沢出合まで来ると、昨年立てられたと思われる道標があった。沢を渡り峠道を行けば蓬峠まで6.0km、沢の上流に向かって行けば中芝新道登山口へ、そして谷川岳まで4.5kmとある。中芝新道登山口は芝倉沢から尾根に取り付く地点なのか、それともここ芝倉沢出合なのかはっきりとはしないが、いずれにせよ芝倉沢から堅炭尾根を巡って一ノ倉岳までの標高差1,000mほどの登山道だ。雪渓がほぼ消えた夏の登山記録を見ると、沢の右岸・左岸を赤や黄色のペンキを頼りにルートを取っている。それに岩がゴロゴロとして大変歩きにくそうな印象を受ける。やはり他の登山道と違い一般的ではないのであろう。 

歩き出しはこんな感じの泥まみれ雪渓

雪渓らしくなる アイゼンを付けて

30分ほどで尾根に取り付く
 道標に従って芝倉沢へと入っていこう。最初は牧草と雪を混ぜ合わせたような雪渓である。当然表面は滑ることもなくアイゼンは必要ない。それも間もなく雪渓らしい雪渓となる。ここでアイゼンを付ける。雪渓そのものは厚く安定していて心配なく歩くことが出来るが油断は禁物だ。出来ればザイルを結んでおいた方が良いかもしれない。ポッカリと空いた穴からのぞき込めばかなりの水流があり落ちればアウトだろう。快適に高度を稼いでいけば芝倉沢は左へと曲がっていく。堅炭尾根への取り付き点を探し左側を見ながら歩くと笹刈りの跡が明瞭にわかった。雪が融けて沢になれば赤や黄色のペンキが沢道に付いているらしいが今は雪渓の下である。雪渓にさよならをして尾根に取り付くが、足下がぬかっていることもありアイゼンは付けたまま歩いた。ガチガチと岩の上を歩くこともあったが、間もなくわずかではあるが残雪が出た。ここは急斜面の上りで6本爪では滑り落ちそうになった。所々露出している岩には古いながらも赤・黄ペンキが付けられている。笹は手入れ良く刈られ安心して歩くことが出来る。

芝倉沢の雪渓群

中芝登山道は手入れがされている

堅炭尾根を目指す(正面が堅炭岩)
 雪渓が消えた夏の芝倉沢はルート探しや沢歩きそのものが大変そうだが、雪渓時期を選べばなかなか快適に沢を踏破できる。尾根に取り付いてしまえば意外なほど明瞭でしっかりとした登山道が続く。
 早速足下には雪解けの花が目に付く。咲き始めたばかりのナエバキスミレ、イワカガミ、シラネアオイ、ショウジョウバカマなどが美しい。次々に現れる植物を楽しみながら歩けば、急な斜面もさほど気にならずに高度を稼ぐことが出来る。芝倉沢出合から一ノ倉岳頂上までは2時間半と値踏みをしている。

高山植物が多い堅炭尾根の登山道

中芝新道 唯一の道標

芝倉沢を見下ろす
 さらにムラサキヤシオ、オオカメノキ、シャクナゲなどが良く来たねと迎えてくれる。尾根に乗り上げる頃にはハクサンイチゲ、ハクサンコザクラが今を盛りとばかり咲いている。堅炭岩にはハクサンイチゲの白い花が点々と岩壁を飾っていた。
 天気は良くなると楽観しながらの歩きだがなかなかガスが晴れてくれない。尾根に出れば武能や茂倉などが間近に見えるはずだが視界は狭く、時折芝倉沢が姿を現す程度だ。残念である、残念であるが花の出迎えがとても嬉しい。冒頭に書いたが中芝新道は破線道である。しかし、今までの歩きからすればこの道を破線にしておくには本当にもったいない。西黒尾根を歩けるならばこの中芝新道は全く問題がないと思う。高山植物が豊富な道だ。秋の紅葉もそれは素晴らしいという。

一ノ倉岳頂上

西黒尾根からマチガ沢の雪渓

ガレ沢のコルとラクダの背
 快適な堅炭尾根も終わり笹原へと入る。いよいよ一ノ倉岳は近い。やけに疲れる道を黙々と歩けばガスに煙った山頂に着いた。早速登山者と出会う。茂倉岳との間の雪原を見に足をのばすがガスが濃く途中で引き返した。足下にはイワナシとシラネアオイ。急斜面を下ればノゾキだが一ノ倉沢はガスの中。以降全く展望を得られないまま谷川岳まで黙々と岩場を歩く。稜線に出てからは登山者の数がさすがに多い。心なしか元気がなさそうなのは天気のせいかな。

ベニサラサドウダンと天神平

岩とハクサンコザクラ

東尾根の雪渓
 オキの耳で休憩を取り西黒尾根を下る。相変わらず西黒尾根登山口手前は雪原が残りロープが張られていた。心配していた氷河の跡付近の残雪もなく順調に下っていく。ホソバヒナウスユキソウ、ハクサンコザクラなどを楽しみながらのんびりの下りだ。高度を下げるに連れそこそこの展望も楽しめるようになってきた。ヘリが湯桧曽川上空を旋回していたが幽ノ沢で滑落事故があったようだ。ラクダの背ではタムシバがよかった。薄日が漏れるようになった西黒尾根の樹林帯を淡々と下り、新しく立て替えられた道標の立つ西黒尾根登山口に降り立った。今日は谷川岳周辺だけが雲に覆われていたようだ。
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