上高地 |
徳沢付近から穂高連峰 |
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久しぶりの上高地だ。釜トンネルを抜け大正池に出ると懐かしい風景が眼前に広がった。沢渡の市営第2駐車場で夜を明かし、シャトルバス(往復¥1800)に乗り込んで終点のバスターミナルまで約30分。山の朝とすれば早くはないが、大勢の観光客が散策を楽しんでいる。天気は上々、自ずと心が躍ってくる。
先ずは本谷を目指し、広々とした遊歩道を歩くあるく。どんどん歩く。ひたすら歩く。どうせ、上りに入ればヘロヘロになるのだから、平坦な歩きで時間を稼ぐのだ。明神岳や前穂の眺めがいい。梓川に沿って明神岳を大きく回り込む。横尾から吊り橋を渡り本谷を目指すと2人の若者がザイルを肩に屏風岩を見上げている。年季の入ったザックを背負っているところを見ると登攀するに違いない。日本屈指の岩壁だそうだが、我々にはほど遠い世界だ。先を急ごう。 |
本谷橋 |
横尾谷に入るとようやく登山道らしくなる。しかしたいした登りもなく本谷橋に着いた。橋の向こうには多くのハイカーが休憩している。我々も右岸に渡り一息入れた。どこかの山小屋の若者だろうか、3人で吊橋の下に別の橋を架ける作業をしている。急ぐ人が渡る橋らしい。沢の冷たい水を飲み、いよいよ本格的な登りに入る。樹林帯の中、特別風があるわけでもないがさほど暑くもない。平坦とはいえ3時間以上歩いてきた足は幾分重い。間もなく後ろに人の気配を感じたと思ったら、あっという間に追い越されてしまった。橋の作業をしていた若者達だ。気持ちが良いほどの歩きだ。加藤文太郎もこんな風に歩いていたのだろうなぁと思ってしまった。Sガレと呼ばれる一寸した岩場まで来ると涸沢、そして中央には目指す奥穂高岳が見える。 |
涸沢 |
灌木帯を進むと奥穂高岳と涸沢岳が近くなってくる。そして小屋の分岐に差し掛かった。カラフルなテントが設営された天場を通って涸沢小屋へ向かう。道は岩を敷き詰めたようだ。小屋は見えるがなかなか到着しない。もう足はヨレヨレとなっているようだ。小屋の右奥には北穂高岳が聳えている。できれば北穂経由で行きたいが翌日が時間的にきついだろう。テント周辺で思い思いに過ごしているキャンパーを横目に歩けば、ようやく涸沢小屋に着いた。涸沢が一望できる小屋のテラスに多くのハイカーが楽しそうに会話をしている。空いたテーブルを確保し、先ずはビールで乾杯だ。前日コンビニで用意した昼食を口に運ぶ。
涸沢は草紅葉がようやく始まったばかりだ。ナナカマドの実は真っ赤に染まってはいるが、本格的な紅葉は後2週間くらい先になりそうだ。涸沢ヒュッテも賑わっている様子だ。吹き流しが勢いよく泳いでいる。 |
前穂高岳 |
奥穂高岳 |
涸沢岳 |
常念岳 |
山荘の裏手に登山道は続いている。そして涸沢山荘は北穂高岳への分岐ともなっている。小屋から灌木帯を抜け岩が敷き詰められた登山道をカールを見ながら進む。ここで象徴的なのは涸沢槍だ。紅葉こそ始まったばかりだが写真で見る涸沢の風景が目の前に広がっている。岩に白くペイントされた○を目印に高度を徐々に上げていく。ハイマツとナナカマドの多い道だ。登山道はパノラマコースからの道を合わせ、涸沢岳の前を横切るようにザイテングラードに向かって続いている。ガレ場に一本の小尾根が稜線に向かって延びている。これがザイテングラードである。なんとか取っ付きに着いた。振り返れば屏風の頭越しに常念岳と蝶ヶ岳を望むことができる。どこから見てもわかるピラミッド型の常念岳の姿は本当に美しい。 |
奥穂高岳とザイングラード |
さて、あとはこの小尾根を穂高岳山荘に向かって登るだけだ。見上げればかなりの急登である。しかしこの尾根を登りきれば宿泊地である。下ってくるハイカーも多く待機時間も多いが、足を休ますには丁度いい。この小尾根がなければガレ場を大きく蛇行しながら登らなければならないのだろう。何度も上ってきた登山道を振り返りながら高度を稼いでいくと、いよいよ山小屋が見えてきた。無数の石が積み上げられた鞍部に穂高岳山荘は建っている。その石垣に腰掛けてくつろいでいるハイカーがの姿が大きくなってくる。そして遂に1日目の目的地に着くことができた。先ずは宿泊手続きを済ませてゆっくりとしよう。1泊2食8800円也。 |
穂高岳山荘 |
ややガスが出てきたが明日も天気は期待できそうだ。ザックだけ置いて涸沢岳までピストンしようと思っていたが翌日の朝に変更した。山小屋の中は宿泊手続きを待つハイカーが列を作っている。手続きを済ませた後直ぐに缶ビールを買って石垣に腰を下ろしカールを見下ろす。とにかくやれやれだ。
北穂の方からも奥穂の方からも続々ハイカーがやってくる。今夜は覚悟しなければなるまい。夕食は7時半からと言われているしなあ。どうやら350のところ600人以上泊まったらしい。当然布団1枚に2人ですね。夕食は5時から30分交代。朝食は5時半から先着順で、5時前から並んで待っているような有様。 |
奥穂高岳山頂 |
朝目覚めてビックリだ。ガスだ。霧雨状態だ。うそだ(T_T)
皆さんめげずに早立ちをしています。一番で朝食をとり、これはだめだと悟るとしばらくふて寝をした。それでも歩き出さねばなるまい。奥穂への道は小屋の脇からの岩登りに始まる。元気が出ないがしっかりと歩かなければ…。やはり山は見られるときに見なければだめだなぁ。せめて涸沢岳でも登っておけば良かったなあ。いかんいかん、気を取り直して前向きに歩こう。流れるガスの中、何の展望も得られないうちに奥穂高岳山頂に着いてしまった。山荘での出発が遅かったせいか頂上付近はあまり人もいない。穂高神社石祠が祀られた大きなケルン、そしてその脇には方位盤がガスの中ぼんやりと浮かんでいた。またオイデということか。来るとも、もう一度必ず来る。 |
紀美子平 |
さあ、展望のない吊尾根を前穂に足を進めよう。南陵の頭を過ぎてさらに長い鎖場を通過。ようやく歩いている周りくらいは見えるようになってきた。雨具を脱ぎ一息つく。最低コルを過ぎ岩壁の側面を進むと紀美子平に着いた。紀美子とは女性の名前だろう。どんないわれで命名されたのだろうか興味のあるところだ。何を隠そう母親と同じ名前なのである。紀美子平から眼下を見下ろせば、重太郎尾根が一気に下り落ちている。この下りも厳しそうだ。 |
その前にザックを置いて前穂の山頂に向かう。幾らか薄日も差してきて期待を持たせるが無理だろうなあ。巨大な岩を積み上げたような前穂への登りである。身軽な割には辛い登りで、息を切らして山頂に着いた。案外と広い山頂である。標柱でもなければ三角点は見つけられないだろう、そんな山頂だ。このピークからの展望もお預けのようだが、再び訪れることはない気がする。他のハイカーは粘るようだが、我々はあっさりと諦めて紀美子平に戻る。厳しい重太郎尾根を歩くハイカーがよく見える。 |
前穂高岳山頂 |
重太郎尾根を下る |
岳沢ヒュッテ |
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岳沢への道は紀美子平を巻く長い鎖場で始まる。やがてハイマツ帯にはいると雷鳥広場だ。左手に明神岳の山肌を見ながら一気に下っていく。この尾根の登りはきついだろう。涸沢回りで来て良かったと思った。しかしこの尾根を上ってくれば大展望が得られたかと思うと残念でもあった。岳沢パノラマ、カモシカの立場を過ぎるとダケカンバの樹林帯となる。ジグザグとした道を下りていくと岳沢だ。沢の先には岳沢ヒュッテの赤い屋根が見えた。生ビールで乾杯だ。そして1000円のラーメンを食した。あとはどこにでもあるような登山道を下って上高地まで戻るだけだ。前穂高登山道を下りカッパ橋に着いた。シーズンの隙間と思われる時期だが観光客はそれなりに多く、下山してきたハイカーはバスターミナルまでの道を急いでいた。カッパ橋からは梓川沿いに歩いてバスターミナルまで戻った。沢渡で汗を流し家路についた。 |