平ヶ岳
ひらがたけ
2141m
みなかみ町・新潟県
姫の池と平ヶ岳
登山日 2003年8月2日(晴れ) しんぷる
行 程 鷹ノ巣登山口(04:30)…前坂(05:11)…下台倉山(06:17-06:22)…台倉山(07:06)…台倉清水(07:15)…白沢清水(07:48)…池ノ岳(08:55-09:00)…姫の池(09:03-09:08)…平ヶ岳山頂(09:36-10:11)…水場・キャンプ場(10:33)…玉子石(10:54-11:11)…姫の池(11:31)…白沢清水(12:15)…台倉清水(12:46)…台倉山(13:02)…下台倉山(13:45)…前坂(14:24)…鷹ノ巣登山口(14:52)
 沼田から距離にして140Km、時間にして高速道路を利用して2時間半。アプローチにこれほどかかる百名山はない。しかも軽装で往復10時間を要するといわれる。景鶴山からは指呼の距離に思えた山も実は遠い山だったのである。平ヶ岳はその頂上湿原と玉子石で有名だ。そして宮様ルートの問題も抱えている事でも知られている。
 長い梅雨がちょうど明けた日に登る事が出来た。この時期としてはまずまずの天気に恵まれ十分に満足出来る山行になった。
玉子石

鷹ノ巣駐車場
 奥只見シルバーラインを抜けて銀山平に出る。奥只見湖畔に沿って国道352を1時間程走らせ、午後11時に登山口のある鷹ノ巣の駐車場に着いた。既に多くの車が駐車しているがまだ余裕がある。車のライトを消しエンジンを止めて外に出てみれば満天の星だ。明日は期待出来そうだぞ。期待に胸が弾む。途中で買い求めた缶チューハイを睡眠薬代わりに1缶飲み干して眠りについた。
 寒さで目を覚ました。外はまだ暗い。そっと夜空を見上げれば雲が出たのだろうか星が一つも見えない。しばらく横になっているとあちらこちらで明かりが灯りハイカーが活動を始めだしたのがわかる。腕時計は4時を指している。長丁場に備えてこの時間には歩き始める予定だったがまだ暗く、懐中電灯のない私にはまだ早そうだ。それでも仕度を始めた。4時半には明るくなり歩けるようになった。
登山口案内板

道標

痩せ尾根が続く

燧ヶ岳を望む
 途中にはだいぶぬかるんだ場所があるらしいので最初からスパッツを装着する。そして急登に備えてストックは欠かせない。長丁場には大いに威力を発揮、膝への負担が全然違うのだ。駐車場脇の登山口から林道に入っていく。直ぐに立派なブナ林だ。緩やかな上りの林道を進むといつの間にか杉林に変わっている。下台倉沢を飛び石伝いに渡ると「平ヶ岳11.3Km」の道標があらわれる。道標に従い林道をはずれて登山道に入っていく。最初は緩やかな樹林帯の上りだが直ぐに急登に変わる。そして尾根に取り付くようになる。やがて両側が切れ落ちた痩せ尾根となり、白っぽく見える砂岩の尾根がなだらかな孤を描いて上部に延びている。左手には見事な双耳峰の燧ヶ岳が大きくそびえ立っている。ここで一人二人と先行者を抜く。「前坂」を過ぎても急登は続く。先は長いし慌てても仕方がないが、今日はなんだか調子が良さそうだ。

前坂

下台倉山への急登

平ヶ岳が姿を現す
 下倉台山へは一旦下り、鞍部からは今までの急登に輪をかけたような上りとなり、思わず目眩がしそうだ。そこに単独行者がゆっくりと登っている。後を追うように急登をフーフー喘ぎながら上ると下台倉山だ。道標の脇には先の単独行者が一息ついていた。なんと女性である。女性の単独行には度々会うが、この長丁場にまさかと思ってしまった。ここで休憩を取りたかったが展望が今ひとつで、しかも登山道の一部と言った感じだったのでもう少し歩いてみる事にした。すぐに展望が開け休憩するのに適当な場所があった。あ〜あ、とにかく休憩だ。

低木帯を行く

樹林帯の木道

白沢清水
 下台倉山からは大白川に張り出すいくつもの尾根を左手に見ながら進む。燧ヶ岳の眺めも良い。低樹林帯の道は数回のアップダウンがある。決して楽な行程ではないが今までの上りからすれば訳はない。下倉台山まで頑張ればあとは体調を整えながらの歩きが出来る。休憩地点から歩き出すと直ぐに平ヶ岳が姿を現した。いやあ、まだまだ遠いなあ。だけど山頂部はしっかりと晴れてるぞ。早く行かなきゃあ。
 ヒョイと台倉山へ出た。ここは道標もなく三角点が埋め込まれているだけの寂しい山頂だ。下台倉山と同様に登山道の一部といった感じだ。さあ先を急ごう。緩やかなアップダウンを繰り返しながらも徐々に下っていく。泥濘が多く歩きにくい。平坦な登山道を行くと「台倉清水」のちょっとした広場に出た。貴重な水場だが、ペットボトルにはまだ十分な水がある。帰りに寄る事にしよう。

白沢清水の湧き水
 オオシラビソの樹林帯の中、木道が断続的に現れる緩やかなアップダウンが続く道だ。全体的にはやはり下っている。平坦な道を行くと「白沢清水」だ。木道の脇の水場には十分な量の湧き水があった。マグカップで静かにすくい取り口にしたが、冷たくてとてもおいしく感じた。さて、ここからがまた急登になると言う。休憩きゅうけい(笑)。

平ヶ岳

池ノ岳

灌木帯
 木道の緩やかな下りから平坦な道になる。そして中登となり再び傾斜が緩くなると平坦な泥濘が続く道だ。いよいよ急登が始まる。地面が雨水などに浸食された溝がそのまま登山道となっているので非常に歩きにくい。歯を食いしばりながら笹が切り開かれた急登を行く。抜きつ抜かれつ歩いてきたハイカー達もさすがにきつそうだ。そういえば単独行者ばかりだ。老夫婦1組と中年男の二人組に会っただけで他は全て単独。こんな山は珍しい。汗をボタボタ滴らせながらとにかく上る。笹の溝道を抜け、やや右に道が曲がると池ノ岳が、そしてその左手には平ヶ岳が見えてきた。さらに至仏山が霞んでいた。山頂付近は少しガスが掛かっている。池ノ岳までは距離はわずかだが岩稜の痩せ尾根だ。取り付く前に一休み。

姫の池
 おそらく最後の急登だろう。展望に励まされながら最後の力を振り絞る。歩き出せばわずかで山頂の岩場に着く。岩に腰掛けて再び小休止だ。ハイマツとシャクナゲと笹の混じった灌木帯を抜けるとそこが「姫の池」だった。姫の池を中心に広がる湿原にはキンコウカやタテヤマリンドウなどが咲き乱れ、ワタスゲの穂が風に揺れていた。やっと着いたんだなあ。予想より時間が掛かっていないし山頂ではゆっくり出来そうだ。天気もまずまずだし本当に良かった。しあわせ、しあわせ(笑)/

姫の池湿原

池ノ岳と平ヶ岳のコル

気持ちのいい草原
 ゆっくりと散策したい気持ちになったが先ずは平ヶ岳に急ごう。ガスが出てきたら台無しだ。道標に従って平ヶ岳までの1.0Kmの木道を行く。姫の池と平ヶ岳とのコルはキンコウカやワタスゲに彩られた湿原が広がっている。玉子石への分岐を右に見て降りていくとやけに背の低いオオシラビソの樹林帯だ。それもわずかで抜けると再び湿原に出る。キャンプ場への分岐を右に分け山頂へ向けての緩やかな上りとなる。清々しい風を受けながらのんびりと歩く。ワタスゲの白い穂が風に揺れ、イワイチョウも咲く道。もはや急ぐ事もない。むしろゆっくりゆっくりと歩いていたいのだ。

山頂は近い

三角点前の木道

三角点
 それでも山頂に着いてしまったようだ。立派な案内板の脇にはいると三角点と標柱があった。灌木が邪魔をして展望はない。木道に戻り大休憩とする。正面には白沢山の池塘が点在しているのが見える。既に遠望は利かず至仏山がシルエットの中に、そしてあの景鶴山も黒く霞んでいるだけだった。腹と喉の渇きを潤すと木道に沿って歩いてみた。顔も覚えてしまったハイカー達も思いおもいに散策しているようだ。ほぼ一緒に歩いてきた人達も私が池ノ岳で小休止を取ったせいで、既に散策を終えて山頂を去っていってしまっている。三角点よりもやや高い地点に池塘が点在する湿原が広がっている。ちょっとした笹原を抜けるとニッコウキスゲが咲いていた。木道をどんどんと進む。ああ気持ちがいいなあ、まさに天上の楽園だ。いったいこの木道はどこまで続くのだろうか。残念ながら工事中で行き止まり。朝からヘリコプターの音が聞こえて遭難者でも出たかなと思っていたが、どうやら工事用資材を上げたらしい。残念だが戻る事にした。三角点前の案内板の前で再び休憩をしていると、先の女性ハイカーに声をかけられた。山頂標柱の前で写真を撮ってくれと言う。快く引き受けシャッターを押した。ついでに自分のデジカメを渡し、記念写真を1枚撮ってもらった。珍しい事である。平ヶ岳がそうさせたのだろうか。この先はどうなっているのですかと訊かれたので、素晴らしい湿原が広がっていますから是非足を伸ばして下さいと答えた。

山頂湿原を行く

行き止まり

山頂の水場・キャンプ場
 来た道を戻る。水場への分岐に入り玉子石を目指す。咲き残ったシャクナゲやハクサンコザクラを見ながら水場に降りていく。豊富な沢の水が流れているテン場は何張りも出来そうもない。水は白沢清水の方が冷たく美味しい気がした。ミヤマカラマツが群生しハクサンフウロが数輪咲いていた。わずかに残る雪渓の上を渡り広々とした湿原を歩く。一体玉子石は何処なのだろうか。歩く場所は木道上だけなので迷う事もないのだが…。木道は玉子石を目指してのびていた。ちょっとしたピークの陰にその玉子石は静かに立っていた。そしてその背景を池塘を散りばめた湿原が飾り主役を引き立てていた。ぐると一回りして、手前の広い岩の上で昼食にした。

雪渓が残る

玉子石へと続く湿原

玉子石
 地図を広げて大水上山の位置を確かめた。平ヶ岳から延びる稜線の先に目的の山はあるが、越後沢山〜丹後山〜大水上山へと続く稜線は山腹の途中からガスに覆われ見る事は出来なかった。しかし、利根川源流に向かい幾筋もの雪渓が残されていた。果たして登る事が出来るのだろうか。
 玉子石から姫の池まで戻る。これでこの景色ともさよならだ。果たして再びこの山を訪れる事があるだろうか。
 帰りは往路を戻るのみだ。ストックが威力を発揮する。白沢清水でペットボトルに冷たく美味しい水を補給。台倉清水で足場の悪い水場まで降りて味見をした。往復10分あればゆっくりだ。白沢清水がやはり美味しい。午前中に比べてガスが濃くなりすっかり遠望はなくなってしまったが、心配だった膝も気になる程ではなく快調に降りる事が出来た。感謝。
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