景鶴山
けいづるやま
2004m
片品村
尾瀬ヶ原から望む景鶴山
登山日 2003年5月3日(快晴) しんぷる、KY
行 程 鳩待峠(5:50)…山の鼻(6:35-45)…ヨッピ橋(8:00-10)…コル(9:50-10:00)…景鶴山頂上(10:45-11:45)…ヨッピ橋(13:30-35)…山の鼻(14:45-15:15)…鳩待峠(16:20)・
 景鶴山は尾瀬側からの登山が禁止されている山だ。それは尾瀬の植生保護のためであり、当然のことながら至仏、燧と異なり登山ルートは地図上に記されていない。しかし残雪期には植生を荒らすこともないため、必ずしも許可されているわけではないが入山者が多いようだ。道路規制が解除され残雪期に当たるゴールデンウィークがこの山に登るには適期であり、またこの時期を逃しては登山は不可能となると考えた。 山の鼻ビジターセンター
 寒さで午前2時半に目が覚めた。鳩待峠駐車場は前夜から詰めているハイカーの車が多数あった。空には満天の星、ものすごい星の数である。久々に見る天の川だ。さすがに起きるには早すぎるので毛布を重ね再び睡眠を取った。5時前に起床し朝食を済ませ入山の準備を始める。至仏山登山口の積雪は昨年の倍近くあった。予定では5時に出発する予定であったが朝食に手間取ってしまってだいぶ遅くなってしまった。

鳩待峠入山口

川上川(山の鼻へ向かう)

山の鼻から望む至仏山
 今日は同僚のKYと一緒である。先ずは山の鼻に降りることになる。景鶴山へは往復10〜12時間の行程が予想されることから、短時間での往復が可能な沢コースを第1選択に考えていた。山の状態を見て尾根コースを取るか判断しようということになっていた。歩き始めの雪では沢コースが期待出来そうだ。
 KYの歩行ペースは速く、このところ短時間コースをのんびりと歩いていた私にとってはハイペースが心配だった。しかし山の鼻まではおよそ標高差200mの下りであり、問題なく付いていくことは出来た。

燧ヶ岳

景鶴山が見えてくる

ヨッピ橋
 ブナの林には赤布が付けられていたが、今ではとても手の届く位置ではなく現在の倍近くの積雪があるときに付けられたものだと容易に想像出来た。一部木道が顔を見せてはいたが、ほとんどは雪上歩きだ。快調なペースで山の鼻のビジターセンターに着くことが出来た。取りあえず一服することにした。目の前には残雪を輝かした至仏山が大きい。対峙する燧ヶ岳は逆光でぼやけている。近くのテン場には色取り取りのテントが張られ、ハイカーとスキーヤーがのんびりと過ごしていた。
 ここからは尾瀬ヶ原を通ってヨッピ橋を目指すことになる。原にはまだ相当の残雪があり、その上には多くの踏み跡が続いていた。我々も先行者に倣いヨッピ橋までの平坦な道を歩き始めた。
周囲の山々を眺めながらひたすら原を歩く。目指す景鶴山はまだその姿を現してはいない。手前の八海山に遮られているためだ。木道の位置は全くと言っていいほど分からず、ただ踏み跡を行くのみである。遙か先に先行者が見える。方向からして我々と同じく景鶴山を目指しているようだ。牛首を過ぎたあたりから目指す景鶴山が姿を現した。
 ヨッピ橋に着くと橋は予想通り鉄骨がむき出しのままの状態だった。道標が辛うじて頭を出したいた。端のワイヤーに掴まり注意深く渡りきった。ここで落ちればアウトである。原を歩きながら観察した結果、どうやら沢から取り付けそうだと言うことで、ケイヅル沢を詰めることにした。

ケイヅル沢を目指す

上ヨサク沢

上ヨサク沢から振り返る
 東電小屋へはヨッピ橋を渡り右折するが沢を詰めるには直進し左へと進まなければならない。幸いにも単独行氏と思われるトレースが残されていた。薄い踏み跡を見失わないようについていくことにした。踏み跡は迷った様子もなく進んでいた。我々は完全に疑うこともなくその後をついていった。そしてシラカバとブナの老木が立ち並ぶ林を抜けて沢に入っていった。
 ところが、地形図からすると入り込んだ沢は我々が目指したケイヅル沢ではなく、一つ手前の上ヨサク沢である。尾根も左手に見え少なからず沢に入ってしまった以上、この上ヨサク沢を詰めていくことにした。

稜線が近い

与作岳とのコル

シラビソの林を通る
 傾斜もきつくはなく比較的歩きやすい沢だ。ケイヅル沢は雪崩れて黒い土が見えていた。さらに山頂直下には残雪があり、たぶんに危険な感じがしていたのでかえって良かったのかもしれない。先行者の踏み跡をひたすら追っていった。幾度となく沢の水が顔を出している場所は要注意だ。踏み抜いたら大変なことになるのは明らかだからだ。やがて先行者の姿が見えた。その先には稜線が見えていた。どうやら距離を詰めていたようだ。あたりまえである。向こうは上を見上げルートを探しながら登っているのに対し、我々は下を見て踏み跡を追ってきただけなのである。感謝の気持ちを持ってしばらく彼を見ていた。そして彼が見えた位置で小休止を取った。振り返れば尾瀬ヶ原が姿を見せていた。立木が川の流れに沿って生えているのが手に取るように見えた。 先行者の先に見えた稜線は与作岳と景鶴山とのコルに違いない。稜線まで傾斜のきつくなった雪渓を上り詰めていった。思っていたより広い稜線には先行者と与作岳から続く踏み跡が合わさり、その踏み跡は景鶴山へと続いているようだった。コルは立木が少なく気持ちのいい平原という感じだった。正面には真っ白な平ヶ岳が鎮座していた。ここからシラビソの林を抜けていくが、多くのトレースがありルートを探す必要もなく気楽に歩くことが出来た。

景鶴山頂

岩場を行く

残雪の残る痩せ尾根
林を抜けると景鶴山の頂上が見えてきた。更に進むと、複数の先行者が痩せた尾根を登っているのが見えた。なんと楽な行程であったことか。ひたすら先行者のトレースを追ってきただけで既に山頂は目と鼻の先にあるのだ。既に頂上を踏み下山していくハイカーにも10人ほどすれ違った。 痩せ尾根に残った雪の上を進み、いやらしい岩場を幾つか過ぎるとそこは山頂であった。そこには3人の先行者がおり、三脚を立てまわり中の景色をカメラに納めていた。山頂からは尾根が続く西の一部を除き360°の大展望だ。先ずは尾瀬の山々が一望に出来た。その後ろに日光白根〜錫ヶ岳〜皇海山が、北には平ヶ岳が鎮座し、その右手には福島県の山々が、そして左手には越後三山、巻機山から谷川連峰が大きく広がっていた。大展望を楽しんだ後で頂上からややはずれた場所で昼食とした。

景鶴山頂上

ケイヅル沢から望む景鶴山

ケイヅル沢と景鶴山
 帰りは往路を戻るつもりだった。そして残雪の状況と岩場に危険を感じたのでアイゼンを付けることにした。無事に岩場を過ぎシラビソの林まで戻ると、運悪くケイヅル沢に続くトレースを発見してしまった。往路に使う予定だったケイヅル沢を降りることにした。途中から傾斜が増し気温の上昇もあり雪がゆるんでいやらしい感じになってきた。KYの提案でザイルを結ぶことにした。私は必要ないのではと思ったが学生時代に多くの山の経験を積んだKYの意見に従った。安心したわけではないが直ぐに私が滑落した。そしてお互いに2度3度と滑落したが、KYのピッケルとザイルワークで事なきを得た。このことは私の貴重な体験となった。ケイヅル沢を選択したことを後悔しながらも、とにかく原に降り立った。迷うことなくヨッピ橋まで戻る。あとは山の鼻そして鳩待峠へ戻るだけだ。

尾瀬ヶ原から望む燧ヶ岳
 ヨッピ橋からの尾瀬ヶ原の歩きは本当に長かった。雪原での照り返し、変化のない平坦な歩き、ひたすら山の鼻で飲めるであろう冷たい水を頭に浮かべながら歩を進めた。午後になり燧ヶ岳がくっきりと見えてきた。
 へとへとになりながら山の鼻のテン場に着くと、炊事場の冷水を口に含んだ。そして1L近くの水を飲んでしまった。遅れて着いたKYとその場でゆっくり休み鳩待峠へと向かった。
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