毛無岩
けなしいわ
1275m
南牧村・下仁田町
尾根コース展望台からの毛無岩
登山日 2002年11月20日(晴れ) しんぷる
行 程 道場登山口(09:30)…造林小屋(10:10)…稜線(10:58-11:00)…毛無岩頂上(11:36-12:25)…稜線(12:40)…道場下降点・尾根コース(12:49)…沢(13:48)…神社(14:06)…登山口(14:15)
 西上州には岩峰の山が多い。大岩・碧岩、立岩、鹿岳そして毛無岩などがその代表だろう。西上州の山の魅力は麓にある山村が大きく関係している。それはなんとなく懐かしさを感じる山里のたたずまいと個々の集落が背負う山々との見事なまでの融合による。こうしたひなびた山村は歩くだけでも楽しい。生活に密着した西上州の山々には峠道がが非常に多く、今でこそ使われてはいないものの、その名残があちらこちらにうかがわれる。この毛無岩も段々畑のある道場集落を登山口としている。そして誰にも会わない静かな山行になった。 道場の風景
 「蝉の渓谷」にさしかかるとモミジの紅葉が鮮やかだ。このぶんでは山はもう落葉になっていることだろう。南牧川に沿って走る県道は極端に道幅が細くなり対向車に注意しながら集落の中を進まなければならなくなった。羽沢の生涯学習センターの手前を右に折れ星尾川沿いに車を走らす。星尾集落で線ヶ滝・威怒牟幾不動への分岐を左に分け道場集落に向かう。下河原橋を渡り分岐した道を左から進むと小さな神社が現れ右からの道と合流した。神社の脇を進むと水道施設があった。ここから道は舗装路ではなくなったがわずかで登山口の広場に着いた。平日のせいなのか一台の車もない。眼下には砂防ダムが見える。

登山口

沢を行く

ナメ滝
 風もなく暖かい。「前橋山遊会」の道標に導かれ登山道に入って行く。先ずは杉の植林帯をジグザクと上って行く。西上州の登山道としては道も広く分かり易い。快適な道は間もなく沢筋に出た。一旦右側に渡り再び左側に渡り返す。丸太梯子を渡りしばらく行くとナメ滝が正面に見えてきた。そして道は左に大きく滝を高巻きするように続いていた。落葉が厚く堆積する道は気持ちが良いが、沢側が急斜面で滑り落ちたらただでは済みそうもない。右下にナメ滝を見下ろしながらバンド状の道を注意して歩いた。滝を巻くと広く快適な道になり再び沢に出た。左手には北立岩の岩峰が白く聳え立っている。沢沿いに植林された杉は間引きされたように多くの細木が切り倒されていた。そしてようやく毛無岩が頭を覗かせた。

造林小屋

杉の植林帯

毛無岩
 間もなく造林小屋が見えてきた。小屋の近くからは樹林の合間に毛無岩が見える。ここから沢の右側を行くが、杉の幹が白く光り気持ちが良い。足元は岩の上に堆積した落葉なのでうかつに歩けない。ズボッとはまらないように注意が必要だ。少し汗ばんできたので道標の前でフリースを脱いだ。沢の水も大分少なくなってきている。相変わらず杉の植林は登山道の近くばかりだ。ここまでは沢筋の歩きばかりで急登はほとんどない。西上州らしくないぞ!とのんびりと足を進める。
 「毛無岩」の道標からいよいよ沢筋を外れ、杉の植林帯から落葉広葉樹林帯への急登となった。やっと西上州らしくなってきたぞ、さあこれからが本番だ。暖かな陽射と急登で汗が吹き出してくる。すでに落葉した樹林帯は明るく気持ちが良い。時折足を止めて呼吸を整えながら高度を稼いでいく。登山道は毛無岩からどんどん離れていくが300mも切立った岩峰の基部から上る訳にも行くまい、これも仕方のないものだろう。赤松の木が見られるようになると経塚山からの稜線に出た。

相沢越

聳える毛無岩

頂上
 稜線に付けられた登山道は広く、そこには立派な道標があった。相沢越である。ここでようやく汗を拭い一口水を飲んだ。風が全くない穏やかな日だ。さてここから黒滝山方面に向かう。歩き始めると直ぐに黒滝山と荒船山を指した道標が現れた。その下に何も書かれていないもう一枚の板があった。裏に回ってみると「毛無岩/上級コース」と書かれていた。わざと見えないように取付けられた感じがした。エスケープルートが主登山道として扱われているのであろう。すぐに痩せた急登の尾根になる。慎重に上って行くと西側のピークに出た。ここからは逆光の中に毛無岩が黒くその岩峰を現した。一旦下り、落葉に覆われた快適な広い道を毛無岩の基部まで進んだ。
 さて右側は岩壁が見事なまでに切れ落ちている。左もやはり切れてはいるが立木がある。こちら側に落ちたのであれば木に引っかかり何とか助かりそうだ。人の肩幅ほどの急な尾根はとても立っては歩けない。木の根や岩に掴まり慎重に進んだ。頂上に向かって目をやると、逆光のため登山道が黒く見えてしまい思わず立止ってしまった。とにかく無風状態であることがありがたかった。もしここで強風にさらされたとしたらどうであろうか。おそらく強烈な恐怖感に襲われ足がすくんでしまったのではないだろうか。こうした岩場は苦手なのである。どうやら頂上に着いたらしく松の木の山頂標識が目に付いた。さらに前方の南側に突き出した岩の上に山頂柱が立っていた。そしてそこからは360度の展望だ。何と言っても荒船山や立岩が近い。一旦は真っ白に雪化粧した浅間山はほとんど山肌をさらしていた。物語山も眼下に見えた。しかし残念ながらガスがかかっていて遠望ははっきりしない。立岩の向こうに八ヶ岳が大きい。もっとくっきりと見えていればどんなにか素晴らしい大展望が広がっていたことか。

岩壁
 恐る恐るナイフリッジの山頂から四つん這いになって南壁を覗いてみたが、吸い込まれそうで慌てて頭を引っ込めた。何と言う高度感であろうか。それでも山頂で湯を沸かし、冬の定番であるカップラーメンにありついた。のんびりと展望を楽しみながらの昼食だ。相変わらず風もなく居眠りさえ出そうである。いつのまにか時は過ぎていった。

厚い落葉の中を歩く
 東側から下山することにした。こちら側はものすごい急斜面で潅木に掴まらなければとても下りられそうにない。実際すべったら為すすべもないであろう。とにかく潅木を頼りに一歩一歩慎重に下りて行った。一度上り返してから二つ目のコルにさしかかると赤テープが右手を降りていくように付いている。踏み跡は稜線に沿っても付いていたが、近道と思ってテープに従って落葉の上の急斜面を立木に掴まりながら下りて行った。すぐに笹が現れた。考えてみれば今日初めての笹原である。そして道はその中に付いていた。エスケープルートである。急斜面から開放されしばらくはなだらかな下り坂を歩いた。すると道場への分岐道標が現れた。

尾根コース分岐道標
 ここからを「尾根コース」と呼ぶらしい。尾根コースは浮石の多い急斜面で非常に歩き難い。一歩一歩しっかりと歩こうとすれば膝に負担がかかる。かといって力を抜けば、走り出したかのように勢いがついて止まらない。なんとでもしてくれ、である。何度か痩せた尾根を上り下りし徐々に高度を下げていくが、振り返れば立木の間から毛無岩が姿を見せてくれる楽しいコースでもある。途中の展望台と呼ばれる小岩峰からの毛無岩は見事である。赤松の巨木が3本生えている場所から左に尾根を外れる。間違えて直進してしまったが、直ぐに石柱があり、その先は胎内くぐりのような岩のトンネルとなっていた。

モミジの紅葉

沢の積石
 再び気の抜けない急な斜面を下りていくが、ここからはモミジが見事に紅葉していた。既に紅葉も終盤で、その色の深みが何とも味わい深いものだった。道は落葉が深く堆積していた。踏跡を注意しながら下りていく。こちらの尾根コースの方が西上州らしいと思ったと同時に、登るには大変だなとも思った。転ばぬよう気を付けながら慎重に進むと沢に出た。
 沢を少し歩き左岸に出る。ようやくのんびり歩ける道に出た。神社付近まで戻ると何とも言えぬ美しい紅葉が私を迎えてくれた。苔生すような橋を二つ渡り、その紅葉の中に歩いていった。
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