天丸山は平成7年の山林火災により上野村が頂上への登山自粛を呼びかけている。実際村のホームページを見ても登山道は紹介されていない。何か近寄りがたい山の印象を持っていたが、あちらこちらの個人的なHPで記録が紹介されている。機会を待って是非登ってみたいと思っていた。そして天丸沢を詰めるコースが分かり易いのではないかとの結論を得て今回の山行になった。心配していたルートは実際分かり易く全く問題はなかった。 |
天丸山からの御荷鉾山 |
野栗沢のすりばち荘で右折し奥名郷に入っていく。しばらくは舗装された林道が続くがやがて未舗装になる。登山口となる天丸橋は林道の右脇にありもはや利用されることもない橋となっていた。直ぐそばには現在使用されていないプレハブがあり、その脇に駐車した。正規の天丸山登山口へは橋の手前の分岐を大きく右に入りこんで続いている林道を行くと思われた。 プレハブ脇の駐車スペースには単独行者が準備をしているところだった。その隣に駐車した。「おはようございます。天丸山ですか?」「今頃の時期は数台止まっているんだけれど、今日はいないようだね。」大分通っているようだ。こちらも準備を始めると彼は林道を歩いていった。社壇の乗越経由だ。P3を越えていくらしい。こちらは天丸橋の右脇から入り沢に沿って登っていくコースだ。この山はどうもコースがハッキリせず、ホームページを調べあげた。その結果この天丸沢コースが分かり易いと判断したのだが。 |
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社壇乗越経由の登山口へと続く林道 |
道標についての心配はあったが、そんな心配はいらぬほど赤テープ、赤ペンキ等が途切れる事なく付けられており安心出来た。沢を右に左にと上がって行く。天丸沢は小滝が非常に多く度々立ち止っては眺めることが多い。途中の岩の上に誰かが落としたものか帽子が形を整えられて置かれていた。比較的新しいように思われた。やがて沢は分岐、左に進路を取る。白地に赤の矢印の道標が心強い。2箇所の朽ち果ててしまいそうな丸太を慎重に通り過ぎ、岩と落葉の歩きにくい沢を登り詰め、アルミ製の梯子を過ぎ5分ほどして、ようやく道は沢の左手から尾根に取り付くようになる。 |
沢コース |
沢の梯子 |
尾根に取り付く |
先ずは杉の植林地を登っていく。この辺りから西上州の多くの山がそうであるように急登になる。ジグザグと道は続き一気に高度を稼いでいく。立ち止り呼吸を整えることが多くなる。途中大きな切り株の所で一休み、ここから天丸山の眺めがよい。苦しい尾根筋を我慢して進むと一帯が黄葉した楓の木ばかりの明るく開けた場所に出た。そして道標が目に付いた。 |
大山への分岐 |
大山の岩峰 |
大山頂上 |
←大山の道標に従い進路を取る。直ぐ上は尾根筋のようだ。一瞬赤テープを見失うが、いずれにしろ登っていけば直ぐに尾根に出る。痩せた尾根筋を進み岩場を一登りで頂上に出た。両神山方面の眺めがよい。そして後ろを振り返れば天丸山を眼下に見下ろす。山頂に動くものが見えた。おそらく天丸橋で会った単独行者だろう。 |
天丸山、諏訪山 |
コル |
倉門山頂 |
さらに西方を見渡せば天丸山の奥には諏訪山が、その左手には帳付山が、そして雪を被った浅間山を背景に荒船山から妙義山まで西上州の山が一望である。さて天丸山はどこから取り付くのだろうか?おにぎりを一つ頬張りながら単独行者の様子を観察していたが、どうもゆっくりしていて下山しそうにない。痺れを切らしてこちらが先に動き出してしまった。天丸山頂までは1時間はかかるだろう。慎重に痩せた岩稜の尾根を戻った。尾根伝いに行くと幾つも道標のあるコルに出た。
コルからは再び急登で歩きにくい道が続く。天丸山へはこの山行で最高のピークである倉門山を越えて行かねばならない。ひたすら尾根筋を行く。傾斜も緩やかになりどうやら山頂も近いようだ。そして山頂標識は一本の木の根本に静かに置かれていた。注意していないと見落としてしまいそうな山頂である。ここからは小さなピークをたどりながら下っていく。そしてここから帳付山分岐までが一番楽しい歩きだった。程なく帳付山への分岐に着いた。 |
帳付山分岐 |
笹をかき分け進む |
天丸山基部 |
帳付山への道ははっきりしているように思われ、往復3時間半ほどらしいが今日はとても時間がない。天丸山の基部を目指して身の丈ほどの笹に覆われた道を露に濡れながら徐々に下りていく。傾斜がなくなると基部に到着した。さてどこから取付くものか岩峰を見上げながら道に沿って足を進めると1本の朽ちた倒木が道に沿って横たわっていた。さらにそこの岩峰を見上げるとテープが付いていた。確かに取付きやすそうだ。ほぼ南面に位置する。
岩に取付いてみると結構ルートが付いていて思ったほど険悪ではなかった。岩に付いている木の紅葉が見事だ。2カ所か腕力頼みの岩壁を越え、手を使わずに歩けるようになると頂上に出た。そこからは北側が開け大山以上の展望が広がっていた。東方の御荷鉾山から赤久縄山、白色の叶山、南牧川流域の山々そして大きく浅間山。単独行者は既に下山したらしく姿はなかった。 |
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山頂を一人占めである。ラーメンを食べるべく湯を沸かし始め、展望を楽しもうと目を離した次の瞬間、ガシャと物音がした。直ぐにガスストーブが倒れたと思い後ろを振り返ると、なんと炎が立っている。ペットボトル1本分500mLの水がひっくり返り、ガスの炎が近くの立ち枯れた草に燃え移っていた。大慌てで火を消し止めた。この天丸山は平成7年に山林火災に遭った山である。辺りには多くの黒く焼け焦げた木々がある。事なきを得た。湯を沸かし直してラーメンができあがったが箸が見あたらない。近くに生えていた小枝を箸代わりに使った。箸にするにはちょうど良い馬酔木の木があったがさすがに使うのは躊躇した。 |
天丸山頂上 |
帰路は社壇乗越経由でと思い、登ってきた南面から基部に下り北壁方面に歩いてみたが道が分からず往路を戻ることにした。倉門山からは小走りに近い状態で急いだ。沢に出ると汗ばんだ顔を洗い、沢の水を一口含んだ。山頂で水はなくなっていたからだ。非常に美味しく感じた。さらに下りて滝の下でもう二口含んだ。天丸橋に戻ると先の単独行者の車は姿はなかった。北側ルートについて訊いてみたかったのだが…。 |